大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(刑わ)1608号 判決

主文

(一)  被告人水谷保孝を懲役一年二月に処する。

未決勾留日数中一八〇日を右の刑に算入する。

(二)  被告人国分秀夫を懲役一年に処する。

未決勾留日数中二四〇日を右の刑に算入する。

本裁判の確定する日から三年間、右刑の執行を猶予する。

(三)  被告人斉藤満聡を懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中一二〇日を右の刑に算入する。

本裁判の確定する日から二年間、右刑の執行を猶予する。

(四)  被告人丸山康男を懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中一二〇日を右の刑に算入する。

本裁判の確定する日から二年間、右刑の執行を猶予する。

(五)  被告人井花清を懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中九〇日を右の刑に算入する。

本裁判の確定する日から二年間、右刑の執行を猶予する。

(六)  被告人清水満を懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中九〇日を右の刑に算入する。

本裁判の確定する日から二年間、右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、別表一のとおり各被告人の負担とする。

理由

第一被告人水谷保孝は、早稲田大学第一政経学部に在学する学生で、いわゆる全学連中核派に属し、同派の書記局員を経て、昭和四四年七月同書記長となり、同年九月書記長をやめたものであるが、

一、王子事件

(事件の背景)

東京都北区十条台一丁目二番地所在の米軍施設である通称王子キャンプは、終戦以来米軍が地図局等として使用してきたが、昭和四一年頃から付近住民の間にその返還を望む声が出ていた。ところが、同四二年になつて米軍が同施設内にベトナム戦争による米軍の負傷兵を収容する病院を開設する計画のあることが伝わつたところ、かつて朝鮮事変当時同施設の米軍将兵が風紀上の問題を起した経緯があつたため、付近住民の間に右病院の開設に伴なつて生ずる風紀、衛生、騒音等に対する不安危惧の念が高まり、それが急速に同病院開設反対運動へと結集され、住民による反対の署名運動、請願等がくり返され、地元区議会においても全会一致で病院開設反対の決議を行なう等右反対運動は次第に活発になり、昭和四三年に入ると、支援学生、労働者等も加わつて、右施設付近において大規模な集会、デモが行なわれる等反対運動はさらに高まりをみせた。この間にあつて、いわゆる全学連中核派に属する学生らは、右王子病院開設問題を日本のベトナム参戦を示す現象の一つとして重視し、右病院開設をあくまで阻止、粉砕すべきであるとの方針のもとに反対運動に参加し、昭和四三年二月頃から国電王子駅および前記施設付近において、再三集会、デモ等をくり返していたが、同年三月一八日米軍王子病院は開設された。

(犯行の経過)

被告人は、昭和四三年三月二七、二八日の両日東京都千代田区富士見町一七番一号所在法政大学五一一番数室において開催された「全学連主流派春季全国大会」と称する全学連中核派の集会において、同集会実行委員長として、約五〇〇名の参加学生を前にして、全学連中核派の中央執行委員長である秋山勝行とともに、王子米軍基地内の病院設置反対闘争の意義を説明したうえ、闘争の手段として同基地内へ突入する旨の決意を示し、特に二八日の集会においては、「今日はこの集会終了後直ちに王子闘争に出発する。そのときは断乎戦つてもらいたい。」との演説を行ない、さらに同日の闘争の総指揮者に指名された全学連情宣部長青木忠も、同日直ちに基地に突入する旨の決意を表明したところ、集会参加者一同は異議なく右方針を了承し、右方針に基づいて具体的に軍団の編成および各軍団の役割の決定等がなされ、被告人は後続部隊として機動隊の攻撃を防ぐ任務に当る第四梯団に所属し、同梯団の指揮に当ることとなつた。そこで、被告人は、他の学生約四〇〇名とともに、各自プラカード等を所持して同日午後二時三〇分頃前記法政大学を出発し、国鉄飯田橋駅から国電で同秋葉原駅を経由して同王子駅に着き、同三時二〇分頃同駅に下車した後他の第四梯団の学生約一〇〇名とともに最後に同駅前を出発し、数列の縦隊を組んでかけ足で同駅中央ガード下を潜り通称十条通を前記米軍施設の方角に向かい、途中同都北区王子一丁目二番地王子郵便局前を左折した地点で停止し、機動隊に対抗する態勢を整えたうえ、その後同日午後五時頃までの間、前方の通称王子新道上において学生らの違法行為に備え警戒態勢に入つていた機動隊員と、同所から前記王子郵便局前に抜ける道路上において数回にわたつて衝突をくり返したもので、被告人は、その間次のような犯行を行なつた。

(罪となる事実)

(一) 昭和四四年三月二八日午後三時二〇分過頃他の学生らとともに前記のように王子駅前を出発後、同被告人らの行為が無許可の集団示威運動として機動隊員から規制されることのあることを予期しながら、その場合には前記第四梯団の学生約一〇〇名と共同して右機動隊員に殴りかかることを決意し、同日午後三時三〇分頃前記王子駅前から同王子郵便局にいたる間の道路上において、所携の角材(長さ約1.38メートル、太さ約四センチメートル角)に打ちつけていたプラカード板を路面にたたきつけて取りはずして右角材を兇器として用意し、同日午後三時三五分頃前記王子郵便局付近路上に集結して、機動隊員の身体に対して共同して害を加える目的で、兇器である角材を準備して集合し、

(二) 同日午後四時四八分頃東京都北区王子本町一丁目九番の八先路上において、すでに第四梯団に属する者によつて同所付近を警備していた警視庁機動隊所属の警察官に対し投石または角材による殴打等の暴行が行なわれたため、その規制ないし検挙の任務に従事していた同第一機動隊所属巡査磯山利弘に対し、所携の角材で同巡査の左下腿部等を殴打あるいは突く等の暴行を加えて、同巡査の前記職務の執行を妨害したうえ、その際右暴行により同巡査に加療約一週間を要する左下腿内出血打撲傷の傷害を負わせた。

二、文部省事件

(事件の背景)

昭和四四年五月佐藤栄作を首班とする自由民主党内閣は、当時全国各地の大学においていわゆる大学紛争が頻発し、しかもそれが長期化の様相を呈している事態を収拾するため、学長の権限強化、文部大臣の紛争に対する介入権限の樹立等を内容とする大学の運営に関する臨時措置法案を国会に提出し、同法案は同年七月二四日衆議院文教委員会において自由民主党の強行採決により可決され、次いで同月二九日本会議においても可決され参議院に送付された。ところが、参議院において、同法案は同年八月二日文数委員会において審議を経ずに自由民主党の強行採決によつて可決され、次いで同月三日本会議において、参議院規則八八条に基づく議長権限の発動という異例の手続により、同様に審理を経ずに自由民主党が強行採決を行なつてこれを可決し、ここに、大学の運営に関する臨時措置法が成立した。

(犯行の経過)

被告人は、相被告人らとともにいずれも昭和四四年八月四日午前一〇時三〇分頃から東京都千代田区富士見町二丁目一七番一号所在の法政大学校舎内第一文学部自治会室において開かれた全学連中核派の会合に約三〇名の学生とともに参加したが、右会合においては、被告人が都内および近県の各大学からの出席の有無を確認した後前記の大学の運営に関する臨時措置法の成立に触れ、「大学立法が参議院を通つたことはわれわれの見通しが甘かつた。認識を改めて反撃しなければならない。一一月決戦は既に始まつている。われわれがここで大学立法に抗議するのろしをあげれば反対闘争は一挙に盛り上る。最初は少人数で文部省に突入し、中核旗をうちたて、第二陣が新橋から文部省に向かうこととする。」等と述べ、前記法律の強行採決に対して抗議するとともに、当時一一月に予定されていた日米首脳会談の開催に反対する姿勢を外に向けて示すため、管理権者の意思を無視して文部省の建物内に立ち入ることを提案したところ、参加者らは既にテレビ、新聞等によつて前記法案の審議経過および成立を知り、これを政府および自由民主党の議会民主政治をじゆうりんする暴挙であるとして憤慨の念に駆られていたため、即座に被告人の提案に同意した。そこで被告人は、文部省突入組として相被告人国分、同斉藤、同丸山、同井花および同清水を含む一〇数名を選んだうえ、同人らに対し、重ねて、「角材とヘルメットで武装し文部省に突入する。警備の警察官は実力で突破し通りに面した一室を占拠し窓に中核旗を立てて垂れ幕をおろし機動隊が来ても第二陣が援軍に行くまで文部省に踏みとどまり頑張つて貰いたい。」旨述べるとともに、現場の指揮者および情報連絡員を指名するなど各人の任務分担を指示したところ、前記一〇数名の者は異議なくこれを了承した。被告人は、その場に居合わせた玉田裕亮らに命じて角材一〇数本を用意させたうえ、これを右一〇数名の者らが携行するよう指示し、ここに、被告人と右一〇数名の者らは右角材を使用して文部省の警備の任に当つている守衛や警察官らに対し殴打等の暴行を加えその制止を排除して同省庁舎内に侵入することの謀議を遂げた。右一〇数名の者らは、右の謀議に基づき、同日午後零時頃から三々五々前記法政大学を出発し地下鉄飯田橋駅から地下鉄電車に乗車して文部省に向かい、同赤坂見付駅で下車し、同所で全員がおち会つた後同日午後一時一五分頃地下鉄銀座線浅草行の電車に乗車したが、同車内でそれまで一部の学生がビニールに包む等して人目に着かぬようにしていた角材、ヘルメット等を取り出し、各自がヘルメットをかぶり、タオルで覆面し、また角材や旗竿を携える等して武装したうえ、同日午後一時一八分東京都港区芝虎の門二三番地地下鉄虎の門駅に下車し二番ホームに集結し、直ちに同駅改札口をかけ足で通り過ぎ、ほぼ一団となつて同駅文部省前出入口から地上に出て、道路上を約四〇メートルへだつた同都千代田区霞ケ関三丁目二番地所在の文部省本庁舎正面玄関前にかけ足で向かい、同玄関先等で警戒態勢をとつていた警視庁第五機動隊所属の警察官と乱闘状態となつたが、被告人は、以上の経過において次のような犯行を行なつた。

(罪となる事実)

(一) 被告人は、前記法政大学校舎内第一文学部自治会室において、相被告人国分、同斉藤、同丸山、同井花および同清水を含む一〇数名の学生に前記のような指示を与え、かつ兇器である角材(長さ約一八〇センチメートル前後のもの)一〇数本を準備して同人らに携行させ、その結果同人らをして、同人らの行動が文部省庁舎付近を警備中の警察官らによつて規制検挙されようとした場合には共同して右警察官らに殴りかかる等の暴行を加えることを決意させたうえ、前同日午後一時一八分過頃同人らをして、前記角材を準備しまたは角材の準備してあることを知つたうえで、前記地下鉄虎の門駅から文部省本庁舎正面玄関前に通ずる道路上に集合させて、兇器を準備し、人をして他人の身体に対して共同して害を加える目的で集合させた。

(二) 前記法政大学校舎内第一文学部自治会室において、相被告人国分、同斉藤、同丸山、同井花および同清水を含む一〇数名の学生と前記のような共謀を遂げたうえ、被告人を除く一〇数名の学生において、

(1) 前同日午後一時二〇分頃前記文部省本庁舎正門玄関車寄せから同玄関出入口にいたり、同所から同庁舎(文部省大臣官房会計課長安養寺重夫管理)内に侵入しようとしたが、同所付近を警備中の警察官らに阻止されたため、その目的を遂げなかつた。

(2) 右のとおり文部省本庁舎内に突入しようとして同庁舎正面玄関出入口にいたつた際、同所付近を警備中の警視庁機動隊所属の警察官らがこれを現認して規制検挙しようとしたのに対し、こもごも所携の角材または旗竿で殴りあるいは突く等の暴行を加え、右警察官らの前記職務の執行を妨害するとともに、右各暴行により、別表二記載のとおり、警視庁警部江尻武市外四名に対し、加療約一週間ないし一〇日間を要する傷害をそれぞれ負わせた。

第二被告人国分秀夫は、横浜国立大学に在学中のもので、全学連中核派の主張を支持するものであるが、

一、文部省事件

(一)  前記第一の二記載の経過により、同罪となる事実(一)のとおり、他の学生一〇数名とともに、同被告人らの行動が文部省庁舎付近を警備中の警察官らによつて規制検挙されることのあることを予期しながら、その場合には共同して右警察官らに殴りかかる目的で、前同日午後一時一八分過頃兇器である角材を準備して、前記地下鉄虎の門駅から文部省本庁舎正面玄関前に通ずる道路上に集合し、

(二)  前記第一の二記載の経過により、同罪となる事実(二)のとおり、相被告人水谷、同斉藤、同丸山、同井花および同清水を含む約一〇数名の学生と共謀のうえ、相被告人水谷を除く一〇数名の学生らとともに、前同罪となる事実(二)の(1)のとおり、前同日午後一時二〇分頃前記文部省本庁舎正面玄関出入口にいたり、同所から同庁内に侵入しようとしたが、同所付近を警備中の警察官らに阻止されたため、その目的を遂げなかつた。

(三)  右のとおり文部省本庁舎正面玄関出入口にいたつた際、前同罪となる事実(二)の(2)記載の任務に従事していた警視庁機動隊所属の警察官らに対し、前同記載のような暴行を加え、右警察官らの前記職務の執行を妨害するとともに、右各暴行により、別表(二)記載のとおり警視庁警部江尻武市外四名に対し、加療約一週間ないし一〇日間を要する傷害をそれぞれ負わせたが、その際、被告人は、外数名の学生とともに警視庁巡査高橋亨に立ち向かい、所携の角材で同巡査の右肩および左拇指を殴打した。

二、日比谷公園事件

(事件の経過)

いわゆる全学連の中核派、ML派、反帝学評等をもつて組織する全国全共闘連合(以下、「全共闘」という。)は、昭和四四年一一月一三日大阪市において発生した学生と警官隊との衝突の際糟谷孝幸が死亡した事件につき同人の死亡は警官隊の虐殺によるものであると主張宣伝し、昭和四四年一二月一四日午後二時から東京都内日比谷公園音楽堂において糟谷孝幸虐殺抗議人民葬と称する集会を開催することを計画した。ところが、右全共闘と思想および行動面で対立する関係にあつたいわゆる全学連革マル派(以下、「革マル派」という。)は、右人民葬を無意味であるとし、日比谷公園に押しかけてこれを粉砕する旨を表明し、かつ右革マル派の動向は全共闘にも伝わつてきたため、全共闘においては、前記集会開催当日は革マル派と実力闘争になるのは避け難いと考え、その準備をしていた。そして、全共闘のうち中核派、ML派等に属する学生の一部は、同月一四日午前四時頃東京都内法政大学に集合したうえ日比谷公園に向かつたが、直接日比谷公園に向かつた学生もあり、同日午後二時頃から同三時五〇分頃までの間約一、〇〇〇名の者が革マル派所属の学生を襲撃しかつこれに殴りかかる等の目的で、兇器である多数の竹竿(長さ約二メートルないし四メートル、直径四センチメートル)を準備して右公園に集合した。

(罪となる事実)

被告人は、全学連中核派の支持者として前記の集会に参加するため、遅くとも前同日午後三時四七分頃までに、共同して前記革マル派の学生に害を加える目的で前記の兇器の準備してあることを知つて、右日比谷公園に集合した。

第三被告人斉藤満聡は、日本大学商学部に在学する学生で、全学連中核派に属するものであるが、

(一)  前記第一の二記載の経過により、罪となる事実(一)のとおり、他の学生一〇数名とともに、同被告人らの行動が文部省庁舎付近を警備中の警察官らによつて規制検挙されることのあることを予期しながら、その場合には共同して右警察官らに殴りかかる目的で、前同日午後一時一八分過頃兇器である角材の準備あることを知りながら、前記地下鉄虎の鉄駅から文部省本庁舎正面玄関前に通ずる道路上に集合し、

(二)  前記第一の二記載の経過により、罪となる事実(二)のとおり、相被告人水谷、同国分、同丸山、同井花および同清水を含む一〇数名の学生と共謀のうえ、相被告人水谷を除く一〇数名の学生らとともに、前同罪となる事実(二)の(1)とおり、前同日午後一時二〇分頃前記文部省本庁舎正面玄関出入口にいたり、同所から同庁舎内に突入しようとしたが、同所付近を警備中の警察官らに阻止されたため、その目的を遂げなかつた。

(三)  右のとおり文部省本庁舎正面玄関出入口にいたつた際、前同罪となる事実(二)の(2)記載の任務に従事していた警視庁機動隊所属の警察官らに対し、同記載のような暴行を加え、もつて右警察官らの前記職務の執行を妨害するとともに、右各暴行により、別表(二)記載のとおり警視庁警部江尻武市外四名に対し加療約一週間ないし一〇日間を要する傷害をそれぞれ負わせたが、その際被告人斉藤は、外数名の学生とともに、前記江尻武市に立ち向かい所携の旗竿で同警部の後頭部を殴打した。

第四被告人丸康山男は、日本大学生産工学部を中途退学したもので、全学連中核派に属するものであるが、

(一)  前記第一の二記載の経過により、同罪となる事実(一)のとおり、他の学生一〇数名とともに、同被告人らの行動が文部省庁舎付近を警備中の警察官らによつて規制検挙されることのあることを予期しながら、その場合には共同して右警察官らに殴りかかる目的で、前同日午後一時一八分過頃兇器である角材を準備して、前記地下鉄虎の門駅から文部省本庁舎正面玄関前に通ずる道路上に集合し、

(二)  前記第一の二記載の経過により、同罪となる事実(二)のとおり、相続人水谷、同国分、同斉藤、同井花および同清水を含む一〇数名の学生と共謀のうえ、被告人水谷以外の一〇数名の学生らとともに、前同罪となる事実(二)の(1)のとおり、前同日午後一時二〇分頃前記文部着本庁舎正面玄関出入口にいたり、同所から同庁舎内に突入しようとしたが、同所付述を警備中の警察官に阻止されたため、その目的を遂げなかつた。

(三)  右のとおり文部省本庁舎正面玄関出入口にいたつた際、前同罪となる事実(二)の(2)記載の任務に従事していた警視庁機動隊所属の警察官らに対し同記載のような暴行を加え、もつて右警察官らの前記職務の執行を妨害するとともに、右各暴行により、別表二記載のとおり警視庁警部江尻武市外四名に対し、加療約一週間ないし一〇日間を要する傷害をそれぞれ負わせたが、その際被告人丸山は、外数名の学生とともに警視庁巡査尾留川洋征に立ち向かい、所携の角材で同巡査の左肩を殴打した。

第五被告人井花清は、明治大学商学部に在学する学生で、全学連中核派に属する者であるが、

(一)  前記第一の二記載の経過により、同罪となる事実(一)のとおり、他の学生一〇数名とともに、同被告人らの行動が文部省庁舎付近を警備中の警察官によつて規制検挙されることのあることを予期しながら、その場合には共同して右警察官らに殴りかかる目的をもつて、前同日午後一時一八分過頃兇器である角材を準備して、前記地下鉄虎の門駅から文部省本庁舎正面玄関前に通ずる道路上に集合し、

(二)  前記第一の二記載の経過により、同罪となる事実(二)のとおり、相被告人水谷、同国分、同斉藤、同丸山および同清水を含む一〇数名の学生と共謀のうえ、相被告人水谷を除く一〇数名の学生とともに前同罪となる事実(二)の(1)のとおり、前同日午後一時二〇分頃前記文部省本庁舎正面玄関出入口にいたり、同所から同庁舎内に侵入しようとしたが、同所付近を警備中の警察官らに阻止されたためその目的を遂げなかつた。

(三)  右のとおり文部省本庁舎正面玄関出入口にいたつた際、前同罪となる事実(二)の(2)記載の任務に従事していた警視庁機動隊所属の警察官らに対し、同記載のような暴行を加え、もつて右警察官らの前記職務の執行を妨害するとともに、右各暴行により、別表二記載のとおり警視庁警部江尻武市外四名に対し加療約一週間ないし一〇日間を要する傷害をそれぞれ負わせたが、その際被告人井花は、外数名の学生とともに、警視庁巡査阿部武美に立ち向かい、前記玄関ドアを内側から閉めようとしていた同巡査の腹部を所携の角材で突いた。

第六被告人清水満は、東京工業大学に在学する学生で、全学連中核派に属するものであるが、

(一)  前記第一の二記載の経過により、同罪となる事実(一)のとおり、他の学生一〇数名とともに、同被告人らの行動が文部省庁舎付近を警備中の警察官によつて規制検挙されることのあることを予期しながら、その場合には共同して右警察官に殴りかかる目的をもつて、前同日午後一時一八分過頃兇器である角材を準備して、前記地下鉄虎の門駅から文部省本庁舎正面玄関前に通ずる道路上に集合し、

(二)  前同罪となる事実(二)のとおり、相被告人水谷、同斉藤、同丸山および同井花を含む一〇数名の学生と共謀のうえ、相被告人水谷を除く一〇数名の学生らとともに、前同罪となる事実(二)の(1)のとおり、前同日午後一時二〇分頃前記文部省本庁舎正面玄関出入口にいたり、同所から同庁舎内に侵入しようとしたが、同所付近を警備中の警察官に阻止されたためその目的を遂げなかつた。

(三)  右のとおり文部省本庁舎正面玄関出入口にいたつた際、前同罪となる事実(二)の(2)記載の任務に従事していた警視庁機動隊所属の警察官らに対し、同記載のような暴行を加え、もつて右警察官らの前記職務の執行を妨害するとともに、右各暴行により、別表二記載のとおり警視庁警部江尻武市外四名に対し加療約一週間ないし一〇日間を要する傷害を負わせたが、その際、被告人は外数名の学生とともに警視庁巡査青柳勝男に立ち向かい、所携の角材で同巡査の頭部を殴打した。

(証拠の標目)〈省略〉

(検察官の主張と異なる判断をした理由)

一 文部省事件につき、兇器として角材のみを認定した理由

検察官は、公判廷において、文部省事件中、被告人水谷に対する兇器準備結集、その他の被告人に対する同集合の各罪における兇器には、角材のほかビールびんおよび旗竿を含むと釈明している。ところで、一般に刑罰法規にいわゆる兇器とは人を殺傷すべき特性を持つた器具を意味すると解し得るが、兇器準備集合罪の罪質が主として個人の生命、身体または財産に害を加える殺人、傷害または器物損壊等の予備罪的な性格を持つと同時に、社会生活の平穏を侵害するという公共危険罪的な性格を持つことに鑑みると、兇器準備集合罪にいう兇器とは、その器具本来の用途から、またはその構造上人を殺傷し得るに足る形状および性能を有している点から、社会通念上人の視覚により直ちに人の生命または身体に対して客観的に危険の感を抱かしめるに足りるものでなければならない。これを本件についてみるに、被告人国分らが所持したと認められる角材は長さ約一八〇センチメートル前後、太さも数センチメートル角の木材であり、その形状において一種の棍棒ともいうべきものであつて、右に検討した要件を備えるといわなければならない。これに対し被告人斉藤が所持していた旗竿は、二本つなぎのもので、それは、長さこそ一本につき約1.5メートルに及ぶとはいうものの、直径はわずか約2ないし2.5センチメートルの軽い竹竿であり、特に本件当時は、これに文部省の窓から掲げようとしていた全学連中核派の旗を巻いていたことをも考えると、その性能および形状の点で、人の生命又は身体に対して危険の感を抱かせる程度は、前記角材とかなりの差があるといわなければならない。そうとするならば、右旗竿は兇器には該当せず、したがつて、被告人斉藤については、刑法二〇八条の二、一項前段の罪は成立せず、同項後段の罪が成立するに過ぎないといわなければならない。

次に、ビールびんについては、前記三の18の証拠によれば、21本件において学生らが右ビールびんを持参したのは、これによつて警察官らを殴打等するというのではなく、これを火炎びんに見せかけるためのものであつたところ、警視庁科学検査所長作成の鑑定結果回答書によれば、右ビールびんの内容物は殺虫剤ないし農薬であつたことが認められるから、それは直ちに人の生命又は身体に対する客観的な危険性を備えているとは解し難いから、兇器に当るとは解せられない。したがつて、文部省事件においては、角材のみを兇器と認定した。

被告人国分の判示第二の二(日比谷公園事件)につき、刑法二〇八条の二、一項前殺の罪の成立を否定して、同項後段の罪の成立を認めた理由

検察官は、被告人国分が逮捕された当時所持していた石三個は兇器に当るから、同被告人に対しては刑法二〇八条の二、一項前段の罪が成立し、かりに、右の石三個が兇器に当らないとしても、他の参加者が竹竿その他の兇器を持つて集合することに被告人は共謀共同正犯として加わつたものであるから、やはり同罪が成立すると釈明している。

ところで、兇器準備集合罪にいう兇器とは、前述したように、その器具本来の用途から、またはその構造上人を殺傷し得るに足る形状および性能を有している点から、社会通念上人の視覚により直ちに人の生命または身体に対して客観的に危険の感を抱かしめるに足りるものでなければならない。しかし、被告人国分が所有していた石三個はいずれも手中に収まる程度のもので、現に被告人国分は逮捕された当時三個とも左ジャンパーポケットの中に入れていたのであるから、前述した兇器の要件を備えるとは解し難い。

次に、他の兇器準備者との共謀共同正犯の成否について考えると、前記証拠の標目欄五の2の証拠によれば被告人国分が集団に加担したことが確認できるのは、前判示のように三時四七分であつて、それまでの行為の詳細については証拠上全く明らかでなく、しかも同被告人はその二分後の三時四九分に逮捕されているのであるから、かような状況下において被告人国分と他の兇器準備者との間に兇器を準備することにつき共謀が成立したとは、にわかに断じ難い。それで、被告人国分について刑法二〇八条の二、一項前段の罪が成立するとは解せられないが、前記証拠の標目欄に第二の二の証拠とし掲てげた3、10および12によつて認められる当日の全共闘系参加者の竹竿の用意状況特にその本数がきわめて多いことからすれば、同被告人としては、加担の時間は短かかつたとしても右竹竿の準備のあることは容易にこれを知り得たと認められるから、同被告人については同項後段の罪の成立することが認められる(ちなみに、右竹竿はその形状―長さおよび太さ等―からみて、前述した兇器の要件を備えるものと認められる。他方、訴因には、兇器として、丸太、空びん、石塊等も掲げられているが、それらが兇器というに値する形状および性能を有していたかは証拠上必ずしも明らかでないのみでなく、前記証拠の標目欄に第二の二の証拠として掲げた4ないし9によれば、当日の全共闘系参加者でこれらを所持していた者はきわめて少なかつたと認められるから、本件につき、被告人国分に対し刑法二〇八条の二、一項後段の罪が成立するとしても、同被告人がその準備あることを知つていた兇器からはこれを除くのが相当である。)。

(被告人および弁護人の主張に対する判断)

一、王子事件

(一) (公訴権の乱用の主張について)

弁護人は、本件において被告人水谷に対してなされた公訴の提起は、現行法上検察官に認められている公訴提起に関する合理的裁量の範囲を逸脱した公訴権の乱用の場合であるから、公訴棄却の裁判がなされるべきであると主張する。

しかし、多人数が角材等の兇器を所持したうえ、警戒態勢にあつた警察官に対し再三執拗に殴打、投石等の所為に出た本件事案の経緯・態様に照らすと、本件に関する検察官の公訴提起がその起訴に関する裁量権の範囲を著しく逸脱し当然不起訴とすべき事案を起訴したものとは到底認められないところであるから、本件が公訴権の乱用に当るとする弁護人の主張は理由がない。

(二) (正当行為の主張について)

被告人水谷および弁護人は、同被告人らの本件行為は、米軍病院門設に伴なう付近住民への各種悪影響を防止するためのみならず、いわゆるベトナム戦争反対の立場から、日本がベトナム戦争に実質的に加担する結果となることを阻止するためにしたものであり、正当行為である旨主張する。

たしかに、同被告人らがその主張するような動機目的で、しかもそれを正当であると信じて、本件行為に出たことはこれを窺うことができる。しかし、右の同被告人らの主観的意図がすべて客観的にも正当と判断し得るかについては問題がある。日本国憲法を頂点とする現在の実定法秩序の下において行為の動機、目的の正当性は、直ちに行為自体を正当化するものではなく、それは手段、方法の相当性等とならぶ行為の正当性判断の要素であると考えなければならない。すなわち、いかに行為の動機目的が正当であつても、その手段、方法が必要ないし相当性を欠くときは、当該行為は現行法上その責任を追及されざるを得ない。これを本件についてみると同被告人らは、多人数で角材等の兇器を所持したうえ、これを制止しようとした警察官に対し、再三執拗に殴打・投石等の行為をあえてしたものであつて、それが結果において米軍王子病院の開設反対の運動をさらに盛り上げ、ひいては広汎な国民の眼をこの問題に向けさせ、遂には病院を廃止させるという結果をもたらす一因となつたことはこれを否定できないけれども、現行法律秋序の下において、右の行為がその目的を達するための手段、方法として必要ないし相当であつたとは認められない。したがつて、被告人水谷および弁護人の正当行為の主張はこれを採ることができない。

(三) (兇器準備集合罪の適用は不当との主張について)

弁護人は兇器準備集合罪は、昭和三一年当時頻繁に発生した暴力団又はぐれん隊による殺傷、暴力事件を取り締まる目的で新設されたものであり、本件のような事案にこれを適用することは立法趣旨を逸脱するものであると主張する。

しかし、刑罰法規の公権的な解釈適用は最終的には裁判所の判断によるものであり、当該法規の立法趣旨はあくまでも裁判所の判断の資料となるに過ぎない。そして、弁護人のいうような兇器準備集合罪の立法当時の事情を念頭において考えてみても、本件のような事案に兇器準備集合罪を適用することが同罪の構成要件の合理的解釈の範囲を逸脱しているとは解せられないから、この点の弁護人の主張も採用できない。

(四)  (本件角材は兇器準備集合罪の「兇器」に当らないとの主張について)

弁護人は、本件において被告人水谷らが所持した角材はもとはといえばプラカードの柄であつて、兇器準備集合罪にいう「兇器」には当らないと主張する。

なるほど、右角材に当初プラカードの板が打ちつけられていたことは弁護人の主張するとおりである。しかし、前判示認定のとおり被告人水谷ら第四梯団が当初から機動隊の攻撃を防ぐ任を帯びて法政大学を出発し、また国鉄王子駅に下車した後、同所から王子郵便局前に行くまでの間において前記角材に打ちつけたプラカード板をわざと路面に叩きつけて取りはずしているのであつて、この経過からすれば、同被告人らとしては当初から右の角材をもつて警察官に立ち向う意図を有し、ただ事態が切迫する時点まではプラカード板を打ちつけたままにしてその真意をあらわにしなかつただけと認められる。従つて、右角材が兇器準備集合罪にいう「兇器」に当るかどうかの判断に当つて、その角材に当初プラカードの板が打ちつけられていたことを重視するのは相当でない。ところで、兇器準備集合罪にいう兇器とは、前述したように、その器具本来の用途から、またはその構造上人を殺傷し得るに足る形状および性能を有している点から、社会通念上の視覚により直ちに人の生命または身体に対して客観的に危険の感を抱かしめるに足りるものでなければならない。これを本件についてみるに、同被告人らが所持したと認められる角材は長さ約1.2ないし1.4メートル、太さ約四センチメートル角の木材であり、その形状において一種の棍棒ともいうべきものであつて、右に検討した要件を具備するといわなければならない。そうするならば、右角材は兇器準備集合罪にいう「兇器」の概念に含まれるというべきであるから、この点についての弁護人の主張もこれを採用し得ない。

(五)  (公務執行妨害罪が成立する以上兇器準備集合罪は成立しないとの主張について)

弁護人は、本件において兇器準備集合行為が発展して公務執行妨害にいたつたとするならば、もはや兇器準備集合罪は成立しないと主張する。

しかし、兇器準備集合罪は、なるほど公務執行妨害の予備的性質をも有するけれども、前述したようにそれは同時に社会生活の平穏に対する侵害という公共危険的な性格をも持つことを考えると、両罪は必ずしも保護法益を共通にするものではなく、従つて、公務執行妨害罪が成立するにいたつても、なお兇器準備集合罪はこれとは別個独立の罪としての評価の対象となると解するのが相当である。所論引用の東京地裁判決は、共同加害の実行の開始後兇器準備集合罪の構成要件的状況は消滅するからその後兇器を準備した者については同罪は成立しないのではないかとの問題を取り扱つたもので、本件と事案を異にする。従つて、この点の弁護人の主張も理由がない。

(六)  (公務執行妨害は成立しないとの主張について)

弁護人は、本件において警官隊が当初王子新道に阻止線を設けたのは、東京都のいわゆる公安条例に基づく措置であるところ、右公安条例は違憲無効であるから、警官隊が阻止線を設けたのはその根拠を欠き、適法な公務とはいえず、したがつて、被告人らにつき公務執行妨害罪は成立しないと主張する。

しかし、判示のように、被告人水谷を含む第四梯団所属者は、まず、右阻止線を設けた警察官に対し角材による殴打、投石等の強力な実力行使に及んだのであり、かつこのような実力行使は公安条例ないしはそれに基づく警察官の阻止線設定行為の効力にかかわらず違法な行為と評価できるから、警察官がこのような違法行為をした者を、同種行為が引きつづき反覆されるかもしれないことをも予想して、規制・検挙することは警察官職務執行法および刑事訴訟法にもとづく適法な公務であることは明らかであり、本件訴因の記載もまさにこの点を公務としてとらえているものと理解できる。そして、被告人水谷は右の適法な公務に従事する警察官に対し、それぞれ判示のような暴行を加えたのであるから、本件において公務執行妨害罪が成立することは疑いがなく、この点の弁護人の主張も理由がない。

二、文部省事件

(一) (正当行為―抵抗権の行使―の主張について)

被告人らおよび弁護人は、前記大学の運営に関する臨時措置法はその内容において大学の自治を否定する悪法であるのみならず、その成立経過は、自由民主党が衆参両院を通じ一方的に強行採決を行なつたのであり、被告人らが右法律の成立に抗議するため本件行動に出たのは正当行為(抵抗権の行使)である旨主張する。

たしかに、前記法律の内容については、国民の各層から批判の声も少なくなかつたのであり、このように問題のある法律を前判示のように政府、自由民主党が衆参両院を通じ単独採決を強行したのは、議会民主政治をじゆうりんする暴挙との見方もできるところであり、被告人らが強硬手段に訴えて為政者の猛省を促そうとした心理は理解できなくはない。しかし、被告人らが本件に及んだ動機に前記法律の強行採決に対する抗議ということのほかに、当時一一月に予定されていた日米首脳会談の開催に反対する姿勢を外に示すということもあつたことは前判示のとおりであり、そうとするならば、本件の動機目的が正当であつたと断じることには問題がある。のみならず、王子事件についても判示したように、いかに行為の動機目的が正当であつても、そのためにとられた手段方法が必要ないし相当性を欠くときは、当該行為は現行法上その責任を追及されざるを得ない。これを本件についてみると、被告人らは多人数で角材等を所持したうえ管理権者の意思を無視てし文部省庁舎内に侵入しようとし、これを制止しようとした警察官に対し執拗に殴打等の行為をあえてしたものであるから、それは、現行法律秩序の下において手段、方法として必要ないし相当な行為であつたとは認められない。したがつて、被告人らおよび弁護人の正当行為の主張は、これを採ることができない。

(二) (本件兇器準備集合ないし結集罪の適用は不当であるとの主張について)

弁護人は、兇器準備集合ないし結集罪は、昭和三一年当時頻繁に発生した暴力団又はぐれん隊による殺傷暴力事件を取り締まる目的で新設されたものであり、本件のような事案にこれを適用することは立法趣旨を逸脱するものであると主張する。

しかし、右の主張の理由がないことは王子事件について説示したところと同様である。

(三) (公務執行妨害罪は成立しないとの主張について)

弁護人は、被告人らは前述したような正当な目的をもつて文部省に突入しようとしたのであるから、これを阻止しようとした警察官の職務行為は違法であり、したがつて、本件において公務執行妨害罪は成立しないと主張する。

しかし、本件被告人らの行為の動機目的が正当であつたと断じることに問題があるのみならず、そのためにとられた手段、方法も必要ないし相当性を欠くと、認められることは前述したとおりであるから、警察官らが被告人らの兇器準備集合および文部省への侵入企画行為を違法な行為として規制、検挙することは、警察官職務執行法および刑事訴訟法にもとづく適法な公務であると認められる。そして、被告人らは、右の適法な公務に従事する警察官らに対し、それぞれ判示のような暴行を加えたのであるから、本件において公務執行妨害罪が成立することは疑いがなく、この点の弁護人の主張も理由がない。

三、日比谷公園事件

弁護人は、日比谷公園事件について、全共闘所属の学生らの行為は、革マル派が角材等を所持して全共闘の集会を粉砕しようとしたのに対し、自己および集会参加者の身体の自由を防衛するために行なわれたもので、正当防衛である旨主張する。

しかし、前判示のように、革マル派の集会粉砕の動向を伝え聞いた全共闘は、同派との実力闘争の事態となることはやむを得ないとして、同派からの現実の攻撃に先立つて積極的に兇器である竹竿を準備して集合したのであるから、全共闘の学生らの兇器準備集合行為を専ら革マル派からの攻撃に対する防衛的なものとみることは相当でないのみならず、右集合の段階においては革マル派からの急迫不正の侵害もないといわざるを得ないから、本件において、右全共闘の学生らの行為を正当防衛と見る余地はないといわなければならない。したがつてこの点についての弁護人の主張も理由がない。

(法律の適用)

被告人水谷に関する判示第一の所為中、一の(一)の兇器準備集合の点は刑法二〇八条の二、一項前段に、一の(二)のうち公務執行妨害の点は同法九五条一項、傷害の点は同法二〇四条に、二の(一)の兇器準備結集の点は同法二〇八条の二、二項前段に、二の(二)の1の建造物侵入未遂の点は、同法一三二条、一三〇条前段、六〇条に、二の(二)の2のうち公務執行妨害の点は同法九五条一項、六〇条に、各傷害の点は同法二〇四条、六〇条に各該当するところ、一の(二)の公務執行妨害と傷害、二の(二)の2の公務執行妨害と各傷害害はいずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により、重い又は最も重い、傷害又は江尻武市に対する傷害の罪の懲役刑に従い、一の(一)、二の(一)および二の(二)の1の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い二の(二)の2の江尻武市に対する罪の刑に法定の加重をし、被告人国分に関する判示第二の所為中、一の(一)の兇器準備集合の点は刑法二〇八条の二、一項前段に、一の(二)の建造物侵入未遂の点は同法一三二条、一三〇条前段、六〇条に、一の(三)のうち公務執行妨害の点は同法九五条一項、六〇条に、各傷害の点は同法二〇四条、六〇条に、二の兇器準備集合の点は同法二〇八条の二、一項後段に各該当するところ、一の(三)の公務執行妨害と各傷害とは一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により最も重い江尻武市に対する傷害の罪の懲役刑に従い、一の(一)、一の(二)および二の各罪につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い一の(三)の江尻武市に対する罪の刑に法定の加重をし、被告人斉藤、同丸山、同井花および同清水に関する判示第三ないし第六の所為中、各(一)の兇器準備集合の点は刑法二〇八条の二、一項前段(被告人斉藤のみ後段)に、各(二)の建造物侵入未遂の点は同法一三二条、一三〇条前段、六〇条に、各(三)のうち公務執行妨害の点は同法九五条一項、六〇条に、各傷害の点は同法二〇四条、六〇条に各該当するところ、各(三)の公務執行妨害と各傷害とは一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条によりいずれも最も重い江尻武市に対する傷害の罪の懲役刑に従い、各(一)および(二)につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、いずれも重い各(三)の江尻武市に対する罪の刑に法定の加重をし、

以上各刑期の範囲内で被告人らに対し主文のとおりその刑期を定める。

刑法二一条により、被告人らに対して未決勾留日数の一部をその刑に算入する。

刑法二五条一項一号を適用して、本裁判の確定する日から被告人国分に対しては三年間、同斉藤、同丸山、同井花および同清水に対していずれも二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、別表一のとおり各被告人に負担させる。

(量刑の事情)

まず、文部省事件について考えると、同事件は判示のように多人数による計画的犯行であり、犯行の態様も兇器である角材を携える等して文部省本庁舎内に侵入を図り警備の任務に当つている警察官らに対し殴打等の暴行を加えたというもので、粗暴かつ執拗というほかはない。しかし、被告人らが右犯行に出た目的は前判示のとおりであつて、そのうち少なくともいわゆる大学立法の強行採決を不当としてこれに抗議するという点については一応これを諒解できるし、ほかに、文部省庁舎への侵入が未遂に終わつたこと、警察官らの受けた傷害がいずれも比較的軽微であること、さらに被告人らの年令等を考慮すると、右事件にのみ関与した被告人斉藤、同丸山、同井花および同清水については、いずれも刑の執行を猶予するのが相当である。

次に、被告人国分については、右事件のほか、日比谷公園事件があるところ、同事件が日比谷公園一帯の平穏をみだし、通行人等に危険不安の感を抱かせた程度は決して軽くなかつたと認められるが、同事件につき証拠上確認できる同被告人の行為は、前判示のように、短時間、兇器の準備のあることを知りながら全共闘の集団に加わつたというだけのものであるから、同被告人についても刑の執行を猶予するのが相当である。

最後に、被告人水谷の量刑について検討すると、同被告人が関与したのは、文部省事件と王子事件であるところ、前者について他の被告人らに関し述べた有利な事情はすべて同被告人に対してもあてはまる。また、後者について考えると、同事件もまた多数人による計画的犯行であり、犯行の態様も決して軽微とはいえないけれども、被告人水谷らが右犯行に出た目的のうち、少なくとも米軍病院開設による付近住民への各種悪影響を防止するという点については一応これを諒解できるし、またそれは付近住民の大多数の意思にも合致するものであつたと認められるうえに、同被告人らの行為が結果においては病院反対開設運動をさらに盛り上げ、ひいては国民の広汎な層にこの問題に眼を向けさせ、遂には病院を廃止させるという付近住民の大多数の意思に副う結果をもたらす一因となつたこともこれを窺うに足り、これらはいずれも同被告人に対して有利に斟酌すべき事情といわなければならない。

しかし、ひるがえつて考えると、被告人水谷は、すでに詳細に認定したように、文部省事件については他の共犯学生を法政大学に集合させ、兇器を準備するとともに文部省突入行為の意義と犯行の具体的方法を指示したのであつて、いわば同事件の首謀者ともいうべきものであり、また、いわゆる王子事件についても、当日の全学連中核派の集会の実行委員長として、参加者に米軍基地突入を働きかけるとともに、第四梯団長として梯団の先頭に立つ等主導的な役割を果していることが明らかであり、したがつて、前述したように行為の態様等について重大と目せられる右事件について負うべき責任は、他の被告人らのように、指示に応じて犯行を行なつたものとは自ら異なるといわなければならない(いわゆる王子事件について、前判示のように、被告人水谷と同様主導的な役割を果したと認められる秋山勝行および青木忠が第一審において昭和四五年一月一九日および同年五月二〇日懲役一〇月および同八月の実刑判決を受けていることは当裁判所に顕著な事実である。)。よつて、同被告人対しては、主文程度の実刑はやむを得ないものというべきである。

そこで、主文のとおり判決する。(浦辺衛 小林充 平湯真人)

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